マーカス・チャウン氏の著書、「 僕らは星のかけら 原子を作った魔法の炉を探して 」を読了しました。原子という概念が出来た数千年前から、現代までの、原子が何者か、何が原子を 作ったのか、を追い求める気の遠くなるような過程を綴っています。自然という謎に対するサスペンスで有り、エピソードに富んだ科学史でも有り、科学史の暗記に悩まされる高校生にもお勧めです(当然、網羅的に説明した本では無いので、限界は有りますが)。
数式は殆ど存在せず、比喩と図で全てを説明しているため、厳密なものを求めるには向かないでしょうが、非常に分かり易いです。巻末では科学用語が解説されており、科学に弱い人はそちらを参照すれば良いかと思います。
さて、全編を通して素晴しい本書ですが、科学的機微に非常に感心させられた部分が一つあったので、紹介させて頂きます。
原子の中には放射線を放ち、自発的に崩壊するものが有ります。これらの原子の崩壊速度は、半減期という数値で表現されます。これは観測された事実です。
しかし、同数の陽子、中性子、電子を持つ原子は、本質的に全く同じものです。当然ながら経年変化も有りません。仮に変質でもしたら、最早違う原子になってしまいます。よって、これらはどれも全く同様に振る舞い、寿命も同じはずです。
話はここからです。個々の原子に目を向けると、崩壊する寸前の電子と、崩壊する10億年前の電子は同じものなのに、明らかに違う振舞いを示しています。外部からの力によるものとしても、状態に関わらず恒常的に働く原子の崩壊を説明することは出来ません。つまり、全ての原子に一致しているのは、自発的な崩壊の確立だけと言えます。古典的な物理学からしたら確立が支配する世界というのは不可解ですが、これは(少なくとも現代の人類が知る限りでは)事実です。
聞かされると当たり前のようなことですが、徐々に一定の割合で崩壊するというマクロな現象から、個々の原子に目を向けて、こうした推論を(もちろん結果的に間違うことも有るにせよ)下せるような思考力に感動させられました。